フクロウ
バンコク行きの飛行機で、ボクはただひたすら眠りこけた。数日続いた徹夜作業のせいで、心身共にボロボロだったのだ。
二列後部席ではまだ幼い子供を連れた母親が、周りに申し訳なさそうに子供をあやしていた。僕はそんなことにたまに気付きながらも、眠りのノクターンに沈んでいた。
タイには二十歳になる前くらいの頃に一度行ったことがある。 きっと若者の多くが試みるであろう「アジアと自分発見の旅」のためだ。自分を発見したかといえばそんなことはなく、未だに自分のことはまったくわからないように思う。タイはメシがうまい、まあそのことぐらいはその時わかった。はじめての一人旅に浮かれたボクは、世界中からバックパッカーが集まるカオサン通りの喧噪の中、露店で買った海賊版CDを手にふらふらと酔っぱらって一人前の気がしていただけだった。
その後ロクにシュウカツもせず、就職に失敗した僕はパリへ渡った。パリになにがあるか知らなかったし、わからないからこそ選んだのだ。夢を求めてアメリカに渡るなんてなんか陳腐だ、そんな意味の無い反抗心もあった。
パリに渡ってすぐに滞在ビザが切れ、いわゆる闇労働をせざるをえなかった。闇といっても恐らく労働法以外は法律を犯していないのだが、表立って活動することもできない。皿洗いとか、ちょっとしたガイド業とか、あとはよく覚えてないけど手に入る仕事は何でもやった。
そんな日々が続いて少し疲れ気味だった僕は、ある日パリ・オペラ座近くのピアノ・バーで一人酒を飲んでいた。
隣のテーブルではモジャモジャ頭の大男が数人の女性と大声で笑って酒を飲んでいた。
隣の男は僕に気がつくと、せっかくだから一緒に酒をどうだ、と誘ってきた。
パリに住む異邦人という立場としては二人とも共通していた。だから東洋人の僕のことが気になったのかもしれない。
暫く二人で他愛もない世間話をしていた。僕の話にも少し上の空気味だった彼は、急に真顔になると僕の顔をまじまじと見つめてこう言った。
「オレと一緒に人探しの仕事をシマセンカ?」
どこのアクセントかわからないけど、フクロウはそう切り出した。
僕とフクロウとのビジネスの始まりだった。
(作り話 つづく(と思う))
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