2006/12/20

パリ北駅

フクロウとの約束の時間はとうに過ぎていた。

ホテルのフロントと呼ぶにはいささかクタビレたその待ち合わせ場所には、読み古された昨日付のフィガロ紙が置かれていた。手持ち無沙汰で手に取るが、文字を追っても頭には入らない。

眠たげなフロントの男に、フクロウを見なかったか、聞いてみた。「フクロウなら結構前に出て行ったんじゃないかな」。しまった。僕はあせってフクロウの携帯に電話してみたが、繋がるはずもない。

フクロウの部屋番号を無理矢理聞き出し、301号室に向かった。廊下の灯りをつける。鍵は開いていた。荷物は持ち去ったようだった。飲みかけのスミノフのせいなのか、部屋全体が彼特有の酒臭さに覆われていた。

急いでフロントに戻った。ホテルのカードに「最寄りはパリ北駅」とある。あいつはどこへ行くにも電車なんだ。

「フクロウが戻ったらすぐに教えてくれ」気抜け顔が鼻につくフロントの男に携帯番号を書いた名刺と10ユーロ札を渡すと、僕は急いでパリ北駅に向かった。

駅に着く。朝のツンと張りつめた空気と、ターミナル駅特有の喧噪の中、このなかでフクロウを探すのはとても無理だなと悟った。

...。

ヨーロッパ各地やアジアから来たと思われるツーリストの群衆に混じり、一瞬あのエリカを見たような気がした。

エリカはまだパリにいたのか???僕はエリカと思われる残像のなかでそのことに気が付き、ハッと振り返ったが、彼女はもうそこにはいなかった。


エリカとフクロウ、エリカとフクロウ。そう繰り返し唱えているうちに、ある疑いが持ち上がってきた。





(作り話  つづく(はず))



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